大谷の162キロが通用しない理由とは?写真・黒田史夫。

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北海道日ハムの大谷翔平(21)が15日の西武戦で今季4敗目を喫した。7安打、5失点で7回にアウトを取れずに降板。自身が持つ日本最速タイ記録に並ぶ162キロを2度もマークしながらも打たれた。日本で一番速いスピードボールが、打たれるのは、なぜなのか。

 この試合では、5回無死一、二塁でメヒアを迎え、カウント1-1からの3球目のストレートが162キロを表示した。メヒアは、そのボールを見逃してカウントは1-2と変わり、続くボールも161キロを示したが、少し高く浮くと、メヒアに弾き返され打球はライトフェンスの一番上を直撃する同点タイムリーとなった。ここから大谷は、中村、浅村、鬼崎を三者連続三振に斬って踏ん張った。浅村の打席でも162キロを記録している。

 7回には、また今季の対戦成績が、打率・750と相性の悪い栗山を歩かせ、守備の乱れなども起きて走者を2人貯めると、この日、3三振だった“おかわり君”に抜けたフォークをバックスクリーンの左へと運ばれた。131球目。握力も落ちてきた時点での失投だった。

 この試合、160キロを超えたボールは7球。
 大谷自身は、「(メヒアは)投げる場所がベストでなかったと思います。真っ直ぐは、よくなっています。でも、ここ一番のピンチで、1球1球、納得の出来るボールをもっと増やしていかねば。それが出来ていません」と、自己分析をしていた。つまり日本最速タイをマークしながら、それが勝利につながらなかった原因を制球ミスと、ストレートの質だとしたのである。
 
 元千葉ロッテで、評論家の里崎智也氏は、160キロを越えるスピードボールが、決して“無敵のウイニングショット”とならない理由を、こう説明する。

「打者が打席でボールを速く感じるかどうか。そこが重要です。では、どういうボールが速く感じるのか。ひとつは、初速と終速の差が少ないボールです。野球ファンの皆さんは周知の通りスピードガン表示は初速ですから、大谷の162キロの終速が何キロかということですね。もうひとつは、バッターの調子とタイミング。好調でタイミングが合えば、どんなボールも速く感じません。逆にタイミングが合わなければ130キロの台のストレートも速く感じるわけです。遅いボールを速く見せるピッチャーは、この技術が優れています。
 バッターにタイミングを取らせないためにボールの出所ができるだけ見辛くするピッチャーもいます。巨人の杉内やソフトバンクの和田がその典型です。フォームそのものをタイミングの取りにくいものにする工夫をしているピッチャーもいます。だから、誰が一番速いピッチャーだったか?と聞くと、人それぞれ違ってきますよね。でも、大谷のフォームは素直でボールの出所が特別見辛いわけではありません」

 確かに、先日、元中日の“レジェンド”山本昌に、現役時代に打席で最も速く感じたピッチャーは?と聞くと、巨人のサイドハンド、斉藤雅樹(現巨人2軍監督)の名が挙がったし、里崎氏が、速く感じたのは、広島時代のサファテと、楽天、日ハム、横浜でプレーしたライアン・グリンの2人だったそうである。
 故・伊良部秀輝氏にも、打者に対して、フォームの中で、ギリギリまで腕を隠す“スモーキー(煙)”と呼ばれるピッチングスタイルを追求しているという話を聞いたことがある。江夏豊氏が、晩年も、ボールが速く見えたのは、打者から腕が隠れる“スモーキー”だったという。

「もうひとつ打者のタイミングを外す作業がキャッチャーのリードです。162キロが出たとしても、それを狙われていると、タイミングは合わせやすいもの。プロの世界ですから狙ったボールは打ちます。僕は、大谷のリードの悪さが気になります。緩急がまったくついていない。ストレート、フォークの2種類ですから狙いも絞りやすい。大きなカーブを使うとか、162キロのボールを162キロに見せる、キャッチャーのリードが必要になってきます」

 それでも里崎氏は「まだ大谷は4年目。誰もが通る道です」と経験がプラスになっていくと断言する。

「マー君がそうでした。彼も入って数年は、バックスクリーンに表示されるスピードガンの数字ばかりを気にしていました。それが経験を踏むごとに、打順や、状況に応じて、オンオフをきっちりと入れ替える作業ができるようになってきました。ダルビッシュもそうです。大谷も、メリハリを意識していますが、ギアを入れたときに力むと球速が増してもコントロールが乱れます。今、打たれている原因のひとつですよね。ギアを入れても力むことなくバランスを保つピッチングをできるようになるまで時間はかかりますよ」

 オフに筋量を増やして肉体改造。体をでかくしたが、まだイメージと実際の肉体の動きが一致せず、今は、ギアを入れた際にバランスを保つことができていない。しかし、それも修正の努力を続ければ、経験、時間が解決してくれるだろう。打者が、打席で、大谷の162キロを162キロに感じるようになってきたとき、大谷の新しい伝説が始まるのだ。

 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)

管理人の石川です。 

合気修錬に勤しむ者にとって、評論家の里崎智也氏は、術的な動きが何かを、分かりやすく解説しています。我々が稽古で、繰り返し指摘し合うことと、ほとんど同じ言葉です。

「打者が打席でボールを速く感じるかどうか。そこが重要です。では、どういうボールが速く感じるのか。ひとつは、初速と終速の差が少ないボールです。」

加速あるいは減速運動は見える、あるいは違和感を感じるために反応し易い。ところが、等速度直線運動で近づいてくる運動は、親和性あるために反応しにくい。見えないといっても良い。

「逆にタイミングが合わなければ130キロの台のストレートも速く感じるわけです。遅いボールを速く見せるピッチャーは、この技術が優れています。」

強さやスピードを求めず、反応できない動きは武術的速さであって、優れた動きは、ゆっくり柔らかである。

「バッターにタイミングを取らせないためにボールの出所ができるだけ見辛くするピッチャーもいます。巨人の杉内やソフトバンクの和田がその典型です。フォームそのものをタイミングの取りにくいものにする工夫をしているピッチャーもいます。」

「スタートが見えない」ということは、打撃系武道・体術系武道・武器術系武道のジャンルに関係なく、克服しなければならない問題です。それが最も厳密に求められるのは、武器術系武道です。

それ故に、剣の理合いを体術の理合いとして、剣柔一体の稽古をすることは、理に適った稽古方法と思います。

「故・伊良部秀輝氏にも、打者に対して、フォームの中で、ギリギリまで腕を隠す“スモーキー(煙)”と呼ばれるピッチングスタイルを追求しているという話を聞いたことがある。江夏豊氏が、晩年も、ボールが速く見えたのは、打者から腕が隠れる“スモーキー”だったという。」

ここでいうスモーキーとは、型と動作の工夫のことです。あまり高度ではありませんが、意味ある型をつかむことは大切です。次は溜めを作らない体使いです。

「まだイメージと実際の肉体の動きが一致せず、今は、ギアを入れた際にバランスを保つことができていない。しかし、それも修正の努力を続ければ、経験、時間が解決してくれるだろう。」

気剣体の三つがバランスよく一致するのが理想といえども、身体力に傾斜しすぎることを戒めています。

参考「合気道 楽心館 中野道場 熟年ばんざい!」に

投手 山本昌の投球術に、飲み屋のおじさん連中が盛り上がったことが紹介されています。

23  日々のお経は・・「等速直線運動」