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遠山の目付と遠慮 [合気道 練習]

目付の大事 

なぜ、目付が大事なのでしょう。

それは護身として「狭義の武道」のみならず、護心・護国として家庭や国を護る「広義の武道」に通じるからだと思います。ここでは、遠山の目付と遠慮について考えます

遠山の目付とは 

武道格言に「一眼二足三丹四力」(いちがんにそくさんたんしりき)といいます。ここでも最も大切とされるのが、眼こと目付です。 

目付に二つの目付あり。一つが肉眼(動体視力)、一つが心眼です。他の言葉では、一つが近視眼、一つが遠山の目付と分けることもできます。

遠くを近く、小を大に、遅いを速く、個と全体・全身と心機を、囚われなく感じるのが、心眼であり遠山の目付であると思います。

「二足三丹」は「錬り」・「中心力」と等しく、これによって瞬発力と加速運動に勝ることができます。錬りの伴わない目付は、無効力です。

2010年5月27日に「目付にいう肉眼」という記事を書いていました。遠山の目付については、ここを参考にしてください。

遠山の目付で得られる徳目は、遠慮です。

遠慮とは

遠慮とは元来、「遠くを慮る(おもんばかる)」の意で、論語には「遠慮なければ、近憂あり」とあります。遠く将来を判断しないで、目先のことに振り回されると、近く憂慮することになります。

江戸時代以降、「言葉や行動を控えめにする」意に変質したそうです。

遠慮の大事

遠くを慮ることの大切さは、二宮尊徳翁が「秋ナス」の戒めを残しています。(事実かどうか確認できない逸話)

天保四(1833)年の初夏、ナスを食べたら秋ナスの味がした。地上は初夏でも地中はすでに秋になっていると感じた尊徳翁は、桜町の農民にヒエを蒔くように指示しました。

懸念した通り、その年は冷害で稲は実らず凶作となりましたが、桜町では飢える者は一人もでなかった。

尊徳翁の優れたところは、冷害は一年では終わらないと判断し、桜町の農民に天保五、六、七年と続けてヒエやアワ、大豆を植えさせ、それを蓄えさせていった。

尊徳翁の予想通り、天保の大飢饉は、江戸時代後期の天保四(1833)年に始まり、1835年から1837年にかけて最大規模化する飢饉となりました。天保十(1839)年まで続いた。天保七(1836)年までと定義する説もある。

全国では数十万人者が死者を出しましたが、桜町は尊徳翁の遠慮によって、飢死者は皆無だったといわれます。

現代社会において、遠慮は、先見性といわれるかもしれません。目付と遠慮の修行は、十年先に家庭や国を護ることに通じます。

私の遠慮

近視眼 

私が高校三年生の時の思い出です。ダグラス・グラマン事件の関係者の自殺ありました。島田常務の自殺は、私は大きな影響を受けました。以下の最初が遺書。二番目が関係書です。ネットより拾いました。

社員の皆さま

 日商岩井の皆さん。男は堂々とあるべき。会社の生命は永遠です。その永遠のために、私たちは奉仕すべきです。
 私たちの勤務はわずか二十年か三十年でも、会社の生命は永遠です。それを守るために、男として堂々とあるべきです。今回の疑惑、会社のイメージダウン、本当に申し訳なく思います。責任とります。

一月三十一日夜 島田三敬

社員の皆さま と書かれていた遺書の全文

 今日まで、気の張りつめでした。頑張る、頑張る、でやってきました。家族をギセイにし、家をギセイにして、そして、でも、日本一の航空機部を作りました。誰が追随できるでせうか。
 決して、決して、政治家の力を借りた訳ではないのです。つきあいはありました。でも、その力を借りるという事は、期待できますでせうか。それはない。自分の力、それ以外に何がありますか。政治家は便乗、役に立たない。本当の力は私達でした。誰もが納得できるものを推す事が、私達の戦術です。
 E2C然り、他に何にがありますか。対抗機は?
 F4EJ、他に何がありますか?
 F15、他に何にがありますか。対抗機は?
 良いものは、良い。必要なものは必要なんです。政治家は便乗、でも良いものは良いのです。それに筋つけて、インネンつけるのは、おかしいです。私は飛行機に生命をかけて来ました。生命をかけてきたものが、採用されて何にが悪いんでせうか。
 他に何にがあるんですか。私は確信しているのです。国防を考えない人は、何にか言います。チョコレート兵隊でも良いと、・・・それが本当に防衛庁の声でせうか。防衛庁は国を守るのが目的です。おかしい。国を守る事が本当に考へられているでせうか。淋しい事です。
 何にが何んだか解りますか。唯金だ、政治家だと言ふ事で、国会は大さわぎ、本当に日本を考えている人は誰でせうか。事なかれ主義、それは、国、会社、組織をだめにします。こんなんでは日本は保てないと思います。

遺書とは別にフェルトペンで便せんに書かれていた言葉より
日商岩井常務 島田三敬(しまだ・みつたか) 1979/02/01

この年の2月1日に、島田常務は赤坂の日商岩井本社ビルから、投身自殺しました。この日の夜のテレビニュースの画面を、私は克明に覚えてます。

当時の感想を述べます。島田常務という方がまともなのであって、マスコミを含めた世の中の方がおかしいのではないか?他に官僚や政治家、もっと他に悪いやつはいるだろうに、上手に逃げられる。社会や組織の病理は、個人ではどうにもならないのだろうか?この漠然とした想いは、これから大学生活に入ろうとする私に、重い幕を頭からすっぽり被せたようなものでした。

自分が劣って、周囲が優秀に見える、いわゆる自己嫌悪というものでしょう。「鹿を追う者は山を見ず」です。猟師は、目の前の獲物しか見ていなかった。この時、自分や周囲の状況を把握していない。猟師は、獲物を得ても失っても、その時はたと気づく。自分が知らない場所にいることを。近視眼の誤りを、戒めた話と思います。大学入学当時の私自身を、言い当てたような言葉です。「いったい自分は何をやりたくて、何をしたらよいのだろう?」と、考え込んでしまったのです。

遠慮

自分を見失い、自信喪失。ならば周囲を見渡し、身近なできることから始めたらいい。しかし分かっていても、それはできないと思います。なぜでしょう?

先に「錬りの伴わない目付は、無効力です」と書きました。武道に於いて、「自己の中心」と「相手への入り方」の習得を錬りとします。錬れた心身無くして、目付などといっても、砂上の楼閣です。錬りなき目付は、観念的なものにすぎないのです。

生活において遠慮を実践する時、自己の中心たるべき、自己の価値観の根本を磨くことが大切だと思います。自己の正しい価値観を以って、遠くを慮る。それが正しき遠慮ではないでしょうか。その方針を示すのが、教育なり宗教の目的だと思います。当時の私には、自分の価値観が磨かれていませんでした。

振り返って

学生時代の私は、学業よりも、禅などの修養に関心を向けました。卒業後は、今日に至る職業武道家としての道を歩みました。この過程で、家族・友人・職場では、手厳しい批判を受けました。「君、そんなことをして食っていけるのかね?」。「君が将来、路頭に迷う姿が見えるよ!」と、見下した発言を受けたこともありました。

今思えば、私の行く末を心配してのことでしょうし、無視されるよりはマシです。前向きに生きる私にとって、全て大きな励みとさせていただきました。

私は「好き勝手なこと」を、してきたのではありません。その時代ごとに、私なりに遠くを見渡して、「やるべきこと」を、してきたつもりです。

自分の顔と名前と技量で生きていく。社会と関わっていくのは当然ですが、大組織に身をゆだねて生きる気はありませんでした。私に忠告してくださった方々は、大企業社員なり公務員であったりしました。今日、大企業・終身雇用信仰は崩壊しましたが、彼らの安寧を願っています。

私は一時期、公務員として家屋評価の仕事をしていましたが、両親を説得するためであって、安定を求めてのことではありません。自分で決めた期限の三年が過ぎたので、25歳で退職しました。遠回りの三年のように感じましたが、こうした努力は、後に報われました。バブル崩壊後は、質素倹約と貯蓄に努めました。東日本大震災後は、今が勝機と判断し、金融資産の半分を、不動産投資につぎ込みました。この時も周囲は反対しましたが、自分の価値判断が大切です。現在、保有する投資物件は二桁に入りました。毎年、二戸ずつ増やします。そんな今も、質素倹約は変わりません。贅沢をしたいのではなく、道場運営を安定させるために、昼間の空いている時間帯に不動産投資業をしているだけです。

遠くを見て

これからの日本・家族・自分自身について、これからも遠くを見て、判断したいと思います。そして「遠く」と思う時、「父母の恩」を感じます。

「受け継ぎて 国の司の 身となれば 忘るまじきは 民の父母」

上杉鷹山公が、17歳で米沢藩の家督を継いだ時、詠んだ歌です。民は自分の子供として、親として藩政を司るという誓いの言葉です。親は自分が飢え凍えるより、子の飢え凍えを悲しむものです。親の想いは、高く遠くに及ぶものです。私たちが何かを判断する時、親の想いに比較して、いったい自分はどうなんだろうと考えます。

先月末、父 石川保(たもつ)を亡くしました。「慎重にやりなさい」が、私への遺言となりました。自分の価値判断・自力で生きてきたつもりが、しょせん親の後追いにすぎなかったかもしれません。昭和から平成と生き抜いた両親の苦労には、とても及びません。

昨年母を亡くし、続いて父を亡くし、愛別離苦とはこのようなものだったのかと、思い知りました。これを乗り越えて、今日そして未来を、生きようと思います。


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