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師と稽古 [古武道:無限神刀流居合術・会津小野派一刀流剣術]

北京オリンピックマラソン女子の選考にあたり、高橋尚子さんが注目されていた。コーチのないチームとしてのチャレンジが、良い結果を出せるかどうか?残念ながら専門家の予想したとおりとなった。

ディック・フォスベリーという人がある。コーチの忠告と世間の嘲笑を無視し、メキシコオリンピック棒高飛びで金メダルをとった、背面飛び考案者である。当時は「ベリーロール」という跳躍法が、一般であった。専門家の常識を非常識で打ち破る例でもある。まして私はマラソンも世界のトップアスリートの努力も知らない。高橋さんの満身創痍のチャレンジには、賞賛したい。今日は稽古の世界に身を置く立場から、感じたことを書いてみる。

稽古とは見てのとおり、「いにしえをかんがえる」と書く。ところが私の周囲でも、練習はしているのだが稽古になっていない場合が多い。

何故か?

格言にも「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」という。歴史的古伝に基づいた理合いや身体使いを学べば、稽古と言えるかもしれない。
明らかに現代的に創作したもの、あるいは自分の経験上許容出来る型に著しく改変したもの。これをいくら繰り返しても、稽古との距離は遠いかもしれない。これは練習と呼べば、いいのだろう。(断定はできない)

以上のように考え方のもとでは、稽古は上位概念であり、練習は下位概念である。

例えば無限神刀流居合術に、縦納刀がある。(参考:http://blog.goo.ne.jp/ichirakusai3/e/f5d46175244344a7118f490745632c58)小太刀を帯刀していれば、必然、縦納刀。そういう説明もされる。また武術の身体訓練は縦軸の養成、必定、縦納刀になるともいえる。

ところがなかなか?やっている本人は縦納刀をしているつもりでも、縦になっていない場合が多い。両足幅を狭めたり、「く」の字に中心線が折れたり、右脇が開いたり、刃が若干外側へ開いたり。自分の身体の都合の良い方へ、型崩れするのだ。これをいくら繰り返しても、目標を見失った練習になるかもしれない。

型が要求する身体使いに自分を合わせていくところに、錬りがある。それによって会得した足構えと力抜きで、型が身形(みなり)としての形に進化する。こうした先に合気の身体使い、発力を理解し得る可能性を開けるというものだと思う。個性による差違は別として、これだけは崩してはならないというものが、あるものだ。

体術では理想は違うとはいっても、力とスピードで結果が出せてしまう。やがて、何故そうなるのかという大切なプロセスを軽視ししがちになる。そもそも体術は、本質が見えないように隠しているものでもある。まして現代的に試合稽古を取り入れてしまうと、さらにプロセスの軽視は進む。だからこそ古来、剣柔一体であれと、戒めがある。
剣術をすることで、相手との関係の作り方が理解される。これを極意歌で「斬り結ぶ 太刀の下こそ 地獄なれ 踏み込んでみよ あとは極楽」という。
居合をすることで、ひたすら自分の身体使いを見つめることができる。これを極意歌で「居合こそ 朝夕抜いて こころみよ 数抜きせずば 太刀もこなれず」という。
剣柔一体であって柔剣一体ではない。力とスピードに煩わされない剣の理合いで、柔を捉え直すことが大切。

無限神刀流居合術の型崩れしたものを、自分の経験から修正していくことは相当に難しい。師による「違う!違う!こうだろ!」の指摘と口伝を頼りとしての稽古が、近道だと思うのだが。

もちろんこの話は、マラソンの高橋さんには当てはまらない。シドニーで金メダルを取った経験は素晴らしい。しかしその時の形と経験が時代遅れなのか。知性と本能のバランスが崩れたままに、トレーニングをしたのか。それは分からない。自分の経験では制御出来ない状態に、自分は陥るものなのだ。だからこそ、自分の経験を越えた歴史を知る良き導き手が、必要なのだろう。導きて手を、稽古の世界では師範という。よくできた言葉だ。歴史的経験からの模範を示す師。「それは違うよ」と言ってくれる伯楽がそばにいれば、高橋尚子さんの現状も違ったものだろうと思えてならない。


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でこママ

今回のお話。
”じ~ん”としちゃって、コメントのしようがありません。
ただ、ただ、”じ~ん”です。
by でこママ (2008-03-27 12:33) 

一楽斎

「ただ、”じ~ん”です」ですか?

私はただ、お”じ~ん”です。
自称「自嘲気味」中年でしたが、あと数年で初老の年齢になります。
驚きの余り、ただ、”じ~ん”です。
以上、冗談でした。さて、
高橋さんは、北京に行こうという強い理性に固まり、本能的な自然状態を失っていると思います。
by 一楽斎 (2008-03-29 07:27) 

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