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順と逆、表と裏 [素心]

掛川城の御殿(藩主の政務所)藩主の間に、写真の掛け軸があります。落款はありませんが、筆跡鑑定から元藩主のものと思われるそうです。「玩ぶ(もてあそぶ)」とあります。ただし「王」辺が、「習」辺となっていますのでご注意。解説によると、「もてあそぶ」とは相当に高次元の意味で、使われています。 儒学者 大村由己の「惟任退治記」(これとうたいじき と読む。1582年(天正10)/織田政権から本能寺の変、信長の葬儀に至るまでを記した歴史軍記物。「天正記」8巻の内の1巻。漢文体。「総見院殿追善記」は本書の和文体。別名「惟任謀反記」)に 

「平生 嗜むところただに武芸に止まらず 常に五常を専らとし 朋友と会す 内に花月をもてあそび詩歌を学ぶ」とあります。私が簡単に解説させていただきますと、武将たるものは、軍略兵法武芸をたしなむのは当然としても、常日頃、儒教の人が守るべき五常(仁儀礼智信の五つの徳目)にしたがって生きるのは勿論のこと、花鳥風月を自由自在に詩歌に表現する教養もち、友人との交際を深めることが大切。「もてあそぶ」でも、「楽しんで」でも、「童心をもって」と言っても同じこと。方向や分野に囚われず、幅広く教養を深め、生身の人間と交際することの大切さを言っていると思われます。DSC00295.JPG


大村由己の身に置き換えて考えてみましょう。織田信長は戦(いくさ)の天才でした。悪い表現をすると、常識に囚われない残虐性がありました。天下を統一を目前にして信長は、やり方を変えなければならなかったのかもしれません。しかし、彼は自分の性(さが)に従いました。結果、各方面の怨みをかって、本能寺の変で自死することになります。(諸説あって断言のできないなぞです)

この理を中国の軍略兵法で「逆取して順守する」といいます。天下を統一するためには、時には手段を選ばない場面があります。道義や人道に反することもある。それは天下を取る過程ならば、ある程度は許容される。それが「逆取」です。しかし一度、天下を統一したら、道義や人道に従って統治しなければならない。これが「順守」です。

たとえ戦国時代の武将であっても、戦の天才だけでは、それまででした。もし織田信長に、和歌をもてあそび人を感服させるだけの徳と教養、幅と変化があれば順守もできたのかな。「歴史のもしかしたら?」を空想してみました。だとしたら織田信長は日本史上最高の天才と、賞賛されたことでしょう。


我々の武道の歩法の稽古においても、まず順足の半身の一致を学び、次に逆足の半身の一致を学びます。どちらも半身の一致においても、均等に大切です。順と逆に優劣はない。両方が自由に出来て初めて、一つです。(他流では順体逆体という言葉を使いますが、同じことです)技においても表があり、裏がある。表の技が重要なことは勿論のこと、しかし裏があっての表です。DSC00330.JPG

翻って現代社会、逆取順守は生きているといえるでしょうか。私は生きていると思います。我が国は今日、自動車・エレニクトロなどの民生品の加工貿易で国富の大半を得ています。そして輸出代金の利益の約80%は、中東などの資源国へ還流されます。貿易収支の黒字額は、それら差し引きの残金です。品質の高い日本の民生品に太刀打ちできないアメリカ・フランス・ロシアは、中東・アジア諸国へ兵器を売却して、日本から流されたドルをさらに欧米諸国へ還流させます。ですから定期的に戦争が起こることで、世界のお金の循環は成り立っている側面があるのです。さて最近、チベット自治区ラサで3月14日に発生した暴動の話題です。フランスとポーランドは、来る北京オリンピックの開会式に出席しない意思表明をしました。フランスは中国に膨大な兵器を売りつけている、これは「逆取」。人権の名の下に外交的圧力を掛けるのは、「順守」です。やや皮肉ですが、フランスのサルコジ大統領は、偉いです。きっと裏では共産党幹部と、商談を進めているのでしょう。政治・外交とはこういうものだと思います。サルコジ大統領に「やっていることが矛盾している」などと責めるのは情緒的です。国益のために、弁明することなく行動するのが政治家の務めです。常にイエスのカードしか出さない日本の政治家と官僚は、サルコジ大統領に学ぶべきものがあります。


現代人の我々は、政治家・外務官僚ではなくとも同様です。やっていること、ありかたを根本的に変えること。それは時に「変節者!」と言われるリスクもあります。しかし時に、臨機応変の大切さもあります。自分がどうだかは、考えるまでもなく知っていることでしょう。

逆取順守ほどの臨機応変。さらにその上の境地での「もてあそぶ」。現代に実践すべき場面があることを、忘れてはなりません。


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でこママ

私の「逆取順守」 ”でこ”が2~3歳の時

「逆取」
子供が買い物先で駄々をこねると、買い物即中止。
帰宅後、タイムアウト方式にてお仕置き。
「順守」
数ヶ月後、徐々に出先でも駄々っ子にならなくなる。
良い子はお得ね。と言って、おしゃれな喫茶店でお茶をする。
周囲の褒め言葉も手伝い、勝手に良い子にしてる。

ちょっと、違うかしら?
by でこママ (2008-04-09 12:48) 

一楽斎

でこママの「逆取順守」は、世間の「鞭と飴」というものだと思います。

でこママの鞭なら喜んで受けたい人が、足立道場には多いような気がする。
なぜかSという名前の男が、2人もいる。
Sヤマ、Sノと、なぜか名コンビ。

「逆取順守」は、もっとレベルの高い話だったのに。
by 一楽斎 (2008-04-11 00:06) 

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