芸道の稽古は、足元から始まる。脚下照顧 [素心]
芸道の稽古は、足元から始まる。履物を揃えたり、足が汚れていないか、立ち方坐り方の確認のこと。
もちろん目的は、別のところにあります。
身体を支えている足とは、自分を支えている根本の価値を喩えているのであって、実物の足をどうこうしろと、いうことだけではありません。
自分を見つめて掘り下げる、これは常に行っていなければなりませんが、時に「履物を揃えたり、足を洗ったりする」時に、より深く自らに問いかけなさい。
そんな意味だと考えます。
こうして足元の大切さが分かったら、挨拶をする時、歩く時、全てが同じです。
神道にも仏教にも通じる、芸道の人間形成の部分です。
10年も前、可愛らしい兄妹を、指導させていただきました。数年稽古した後、治療での入院期間を経て、稽古から遠ざかりました。
この春あの兄弟の義母という方が、セーラー服の中学一年生のお嬢さんを連れて訪ねてきました。
お母さんが言うには、
「私は訳あってあの兄弟の義母に当たります。その後生まれたこの子が、中学生になりました。 今日入学式を終えた足で、そのまま参りました。
今は大学院生になった姉が、『とてもよいことを教えていただいた』と申しておりまして、ぜひこの子にも、石川先生の下で習わせたいと思いました」。
(私、心の中で「まずい!いったいあの頃、何をしていたのだろう?いつも厳しく接したことしか、覚えていないが?)
私:「あの兄弟のことは、よーく!覚えていますよ!可愛らしかったですね!ところで私が何を、教えたというのでしょう?」
お母さん:「稽古へ来た時、靴を揃えることをしっかり躾けていただいたので、今とても役立っているそうですよ」。
(私、心の中で「まずい!そんなことやってたか、思い出せない?だいたいそんなに立派なことを、自分の倅が話せるだろうか?)
私:「えー!そうでしたね?足元のことは、稽古の始まりですからねー!」
(私、心の中で「ふっー。きわどかったな」)
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